大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

甲府地方裁判所 昭和37年(ワ)80号 判決 1963年3月01日

事実

原告三昇繊維株式会社は請求の原因として、

一、被告河西民男は原告に対し左記六通の約束手形を甲府市富竹町八〇六番地富士貿易株式会社と共同して振り出し、原告は現にその所持人である。

1、ないし6、(省略)

二、よつて、原告は右六通の約束手形金合計七四五、八一九円及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和三七年四月七日から支払ずみまで商法所定年六分の割合の遅延損害金の支払を求めるため本訴に及ぶ、と述べた。

被告河西民男は請求原因事実に対する答弁として、同事実一のうち、被告が原告主張の六通の約束手形を振り出した点は否認するが、その余は認める。同事実二は争う、と述べた。

理由

一、請求の原因一の事実は、被告が共同振出したという事実を除き、当事者間に争がない。

二、そこで、被告が原告主張の六通の約束手形を、富士貿易株式会社と共同して振り出したものであるかどうか判断する。

(証拠)を総合すると、被告は正妻があるのに、昭和三五年初頃から結城きくゑと内縁の夫婦関係を結び、昭和三六年六月頃この内縁関係を解消した。この間、きくゑが昭和三五年三月頃、造花の製造等を業としている太陽興業株式会社の事業を引きついで、太陽フラワー株式会社の設立に参画したことがあるが、その際、被告はみずから額面五〇〇、〇〇〇円の手形を振り出して、右会社の発起人らに交付して、同会社設立のための資本金払い込み資金の調達を助け、被告は同会社の監査役に、きくゑはその取締役にそれぞれ就任し、表向きの事業運営面はきくゑが担当し、被告は資金面できくゑ個人並びに同会社に相当多額の援助をしながら、同会社の運営を進めていた。その後同会社は商号を富士貿易株式会社と改め、昭和三六年三月に至ると、被告はきくゑと相談し、同会社の社長が津金清次ではこれ以上資金面の援助はできない、きくゑと二人でこの会社をやつて行こうと企て、その頃右津金に代つてきくゑが代表取締役社長に、被告が専務取締役にそれぞれ就任し、両者の会社経営上の協力関係は一層緊密となつた。当時、被告はきくゑの内縁の夫として連日きくゑのもとに通い続け、きくゑのために個人的に金を出すことは勿論、「河西」と刻した印章をきくゑに日常あずけておき、同女が右会社の事業の遂行上必要なときは、被告個人の預金払出、手形振出などにこの印章を適宜使用することを認めていた。かくてきくゑは、この印章を自己の住所であるとともに富士貿易株式会社の事務所を兼ねる甲府市富竹町八〇六番地の居宅兼事務所の一室の机上のペン皿の中に置くなどの方法で保管し、本件六通の約束手形の振出は、右会社の経理事務を処理していた深沢幸吉が同会社の社長であり、かつ前記のとおり被告から、印章を使用して被告名義の手形を振り出すことについて包括的に代理権を与えられていたきくゑの指示に従つて、同会社が買入れた商品代金の支払に当てるため、その債権者である原告会社に宛て、富士貿易株式会社と被告の共同振出にかかる原告主張の本件六通の約束手形を作成して原告に交付したものであり、その後原告会社の職員である高橋功外一名が、昭和三六年四月二二日富士貿易株式会社の事務所へ赴き、右六通の手形のいわゆる書き換え手形として、右六通の手形金合計額に利息を加算して額面八〇二、四二五円の約束手形一通を、富士貿易株式会社と被告の共同で振り出すよう申し入れた際、被告は、右申入を承諾する旨一応答えながら、いよいよ右約束手形に署名することを求められるに及び、にわかに口実を設けてその場から立去つたことを認めることができる。(省略)

以上説示したところによれば、被告は、きくゑに本件六通の約束手形振出しの署名代理権を与えていたものであり、その権限に基いて本件六通の手形が振り出されたものであるから、その所持人である原告に対し、被告は右六通の約束手形の共同振出人たる責任を負うべきものである。

三、よつて、被告に対し本件約束手形六通の手形金合計七四五、八一九円およびこれに対する本訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和三七年四月七日から支払ずみまで商法所定年六分の割合の遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は全部正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例